☆考えさせる 視野が広がる
観ていて涙が出た。悲しくて涙が出たのではない。悔しくて涙が出たのである。無謀な侵略戦争のために、良心的な日本人は塗炭の苦しみを味わった。それなのに最近、記憶が風化してきたのをいいことに、「戦前の社会が真っ暗だったわけではない」と言っている人がいる。そういう人に観てもらいたい。
今何が起きているか気づかなかった人、軍部やマスコミの宣伝に乗せられていた人にとっては、確かに「戦前の社会も真っ暗だったわけではない」のだろう。しかし、自由が圧殺されていることに気づいていた人、それに反対した人にとっては、真っ暗な社会だったのである。そして、初期の連戦連勝に浮かれていた人たちも、太平洋戦争の末期になると、重い沈黙に包まれた。
この映画が描いているのは主に、日米開戦前の日中戦争下の日々である。日本人があまり知らない時期の話だ。中国との戦争に反対した父が逮捕されて、母は娘たちを守りながら懸命に生きていく。やがて父は獄中で死亡。一家を支えていた青年も出征、美しい叔母も広島で命を落とす。
だがこの映画は悲惨ではない。ユーモアを交えて淡々と日常を追いながら、信念を貫く人間の美しさを讃えているからである。溺れかけた青年を助けるため、吉永小百合演じる母がワンピースのまま海に飛び込み、力強いクロールを見せた時には場内がどよめいた。昭和の母は強かった!
坂東三津五郎、浅野忠信、壇れい、笑福亭鶴瓶、志田未来などの個性派を揃えたのが成功している。それだけに「母べぇ」という、若者や女性の関心を惹かないタイトルにしたのが残念だ。
2008年02月02日
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真・映画日記『母べえ』
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