2008年02月26日

アカデミー賞発表 おすすめ映画はこれ!

 昨年11月から続いていた脚本家組合のストで、開催が危ぶまれていたアカデミー賞の発表が行なわれた。脚本家たちが求めていたのは、ネット配信に際して脚本家に支払われる、報酬の引き揚げだ。

 今から20年前、ビデオが普及しはじめた時、その後の展開が予想できなかった脚本家たちは、ごく低額の報酬で合意してしまった。その二の舞にならないよう、今回は強硬に主張したのである。俳優組合も同調して、ストは長引いた。お陰でゴールデングローブ賞の授賞式は、発表だけの地味なものになった。

 しかし、ストが必ずしも悪いわけではない。日本の場合、スト自体が違法扱いで、もはや死語に近くなっている。そもそも団結自体が不可能だ。これでは泣き寝入りするしかない。日本の脚本家たちはこの状況を、どう考えているのだろうか。
 
 さてアカデミー賞だが、前評判の高かったコーエン兄弟の「ノーカントリー」が監督賞、作品賞など四冠を達成した。1991年、「バートン・フィンク」でカンヌ映画祭三冠達成以来、十七年。大家の仲間入りである。殺人者を演じたスペインの俳優、ハビエル・バルデムが助演男優賞を獲得した。とても面白そうな作品なのだが、暴力場面が恐くて正視できるかどうか。

 主演女優賞は「エディット・ピアフ 愛の讃歌」のマリオン・コティヤール。フランス人の受賞は、シモーヌ・シニョレに次いで二人目だ。主演男優賞は「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のダニエル・デイ=ルイス。ゴールドラッシュで財を成し、人間性を崩壊させていく男を演じている。それにしても、もっと気の利いた邦題にできないものか。

 助演女優賞は、イギリス出身のティルダ・スウィントン。ジョージ・クルーニーと共演した企業サスペンス「フィクサー」での熱演が認められた。「ナルニア国物語」では氷の魔女役だった。独特のクールな風貌で、不思議な魅力を放つ女優だ。この映画、楽しみ。

 個人的に注目していた外国語映画賞は、オーストリア映画「ヒットラーの偽札」に。第二次大戦下のドイツで、ユダヤ人の技術に目をつけたナチスが指示した、史上最大の紙幣贋造を映画化したもの。公開中。

 外国語映画賞ノミネート作品は他にも、イスラエル映画「ボーフォート レバノンからの撤退」(公開中)、アンジェイ・ワイダがソ連によるカチンの森虐殺事件を描いた「カチン」、我が浅野忠信主演の「モンゴル」(4月5日公開予定)、継父殺しで告訴されたチェンチェン人少年の裁判を描くロシア映画「12」など、興味深いラインナップだ。

 だが、「カチン」も「12」も公開未定なのが寂しい。なお受賞は逃したが、長編アニメーション賞にノミネートされていた、フランスの「ペルセポリス」が秀逸だ。ホメイニ革命を経験した少女が、ヨーロッパに渡って文化の壁にぶつかり、再びイランに戻ってアイデンティティを探し求める物語。こんな政治的なテーマをユニークアニメにしてしまうフランス人は、やはりすごい。
http://persepolis-movie.jp/
posted by zeroko at 11:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画をめぐる話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月07日

「ぜんぶ、フィデルのせい」公立学校が輝いて見えた

☆考えさせる 視野が広がる 楽しい 

 父親は弁護士、母親は「マリ・クレール」の記者。白人ばかりが通う、カトリックの名門小学校に通う9歳のアンナは、上品で何不自由のない生活を送っていた。だがある日、両親が共産主義者になったのである!

 生活は一変した。両親の希望で、宗教の授業には出ないことになる。メイドさんは政治的理由で、キューバ人からギリシア人、そしてベトナム人に代わる。その度に作ってくれる料理も、聞かせてくれるお話の内容も変わるのだ。両親は選挙の支援にチリに出かけ、家には髭を生やした男たちや、中絶の権利を求める女たちが出入りする。アンナは振り回されっぱなし。少女の目から見た、70年代のフランスである。

 「もう我慢できない!」。アンナは、不満を爆発させる。フランコ派の両親から逃げるようにフランスに来た、スペイン貴族の父親。女性解放を叫びながら、娘をお嬢さん学校に入れた母親。アンナの反撃は、両親の矛盾を鋭く突くのである。いつも仏頂面のアンナがかわいい。

 しかし怒りつつも、真摯に対応する大人たちの中で、アンナは色々考えはじめるのだ。そして、友人と取っ組み合いの喧嘩をしたことをきっかけに、公立学校への転校を決意する。様々な民族が集まる生徒の輪の中に、アンナが恐る恐る入っていくラスト。公立学校が輝いて見えた。
公式サイトはこちら
http://fidel.jp/
posted by zeroko at 23:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ヨーロッパ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月02日

「母べぇ」悔し涙が止まらない

☆考えさせる 視野が広がる 

 観ていて涙が出た。悲しくて涙が出たのではない。悔しくて涙が出たのである。無謀な侵略戦争のために、良心的な日本人は塗炭の苦しみを味わった。それなのに最近、記憶が風化してきたのをいいことに、「戦前の社会が真っ暗だったわけではない」と言っている人がいる。そういう人に観てもらいたい。

 今何が起きているか気づかなかった人、軍部やマスコミの宣伝に乗せられていた人にとっては、確かに「戦前の社会も真っ暗だったわけではない」のだろう。しかし、自由が圧殺されていることに気づいていた人、それに反対した人にとっては、真っ暗な社会だったのである。そして、初期の連戦連勝に浮かれていた人たちも、太平洋戦争の末期になると、重い沈黙に包まれた。
 
 この映画が描いているのは主に、日米開戦前の日中戦争下の日々である。日本人があまり知らない時期の話だ。中国との戦争に反対した父が逮捕されて、母は娘たちを守りながら懸命に生きていく。やがて父は獄中で死亡。一家を支えていた青年も出征、美しい叔母も広島で命を落とす。

 だがこの映画は悲惨ではない。ユーモアを交えて淡々と日常を追いながら、信念を貫く人間の美しさを讃えているからである。溺れかけた青年を助けるため、吉永小百合演じる母がワンピースのまま海に飛び込み、力強いクロールを見せた時には場内がどよめいた。昭和の母は強かった!

 坂東三津五郎、浅野忠信、壇れい、笑福亭鶴瓶、志田未来などの個性派を揃えたのが成功している。それだけに「母べぇ」という、若者や女性の関心を惹かないタイトルにしたのが残念だ。
posted by zeroko at 14:57| Comment(0) | TrackBack(1) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする