「考えさせる」「役に立つ」「視野が広がる」
この映画、昨年11月の公開時に見逃したのだが、渋谷のミニミニシアター「シネ・ラ・セット」でまた上映されたので観に行った。シネ・ラ・セットはユニークな映画館である。座席数40。前半分にはソファと丸テーブル。ちょっとイイ感じ。
惜しむらくは椅子が古いので、座っていると腰が痛くなることだ。最近の映画館は、こういうところにも配慮が行き届いている。シネ・ラ・セットもリニューアルしてもらいたいところだが、興行成績度外視のラインナップだから無理か。
エンロンは、規制緩和の波に乗って拡大した巨大エネルギー企業。2001年の12月、不正発覚から二ヶ月で破綻した。この映画はエンロンが限りなく膨張し、風船がはじけるように破綻していく過程を、元社員や証券アナリストなど関係者の証言を交えて再現していく。
規制の多いカリフォルニアを狙い撃ちにして計画停電を起こし、困っている人々を笑っている社員の様子は衝撃的だ。攻撃性と弱肉強食の論理が、当たり前のようにまかり通っていたのである。その冷酷な企業姿勢がニューエコノミーの旗手として賞讃され、それを大統領が支えた。
攻撃性が賞讃されるのはどういう時か。なぜそれが放置され、多くの人が傍観するのか。悪事が勢いを持った時、それを止めるにはどうすればいいのか。今、日本人が直面している問題である。2005年度アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞
監督:アレックス・ギブニー 2005年アメリカ映画 配給:ファントム・フィルム
2007年01月29日
2007年01月28日
「エラゴン 遺志を継ぐ者」 農民の息子がドラゴンライダーに
「楽しめる」
私は冒険ファンタジーが大好きだ。一番のお気に入りは何と言っても「ロード・オブ・ザ・リング」。あれを超えるファンタジー映画は当分出ないだろう。スケールの大きさ、監督の情熱、キャストの多彩さと魅力において、「ロード・オブ・ザ・リング」は群を抜いている。
その結果、以後は何を観ても二番煎じにしか見えなくなってしまった。「ナルニア国物語」しかり。この「エラゴン」も予告編を観ただけで、似たような内容でスケールが小さいという印象を受けてしまった。
それでも観に行ったのは、原作者のクリスファー・パオリー二がまだ23歳で、書き始めた時は15歳だったということに関心を持ったからだ。自費出版して売り歩いたという。そういう若者が描くファンタジーとはどういうものか、興味が湧いたからだ。
で、内容はやはり何かに似ていてスケールも小さいという印象(あくまで映画を観た限りでは)。これは仕方がないだろう。でも設定が面白かった。
兄弟同様に育った従兄弟は、兵役を嫌って村を出る。残された主人公は抵抗する人々(山にこもっているからゲリラ)を率いて、独裁を続ける王に立ち向かうのだ。王子が頑張るのではなく、持たざる農民の息子が頑張るという抵抗精神に好感が持てる。
ドラゴンとの友情もいい。96年に公開された「ドラゴンハート」を思い出したが、このドラゴンは女性なのがいい感じ。ゲリラの頭領はアフリカ系が演じていたが、原作ではどうなのだろうか。
監督:シュテフェン・ファンマイアー 2006年アメリカ映画 配給:フォックス
私は冒険ファンタジーが大好きだ。一番のお気に入りは何と言っても「ロード・オブ・ザ・リング」。あれを超えるファンタジー映画は当分出ないだろう。スケールの大きさ、監督の情熱、キャストの多彩さと魅力において、「ロード・オブ・ザ・リング」は群を抜いている。
その結果、以後は何を観ても二番煎じにしか見えなくなってしまった。「ナルニア国物語」しかり。この「エラゴン」も予告編を観ただけで、似たような内容でスケールが小さいという印象を受けてしまった。
それでも観に行ったのは、原作者のクリスファー・パオリー二がまだ23歳で、書き始めた時は15歳だったということに関心を持ったからだ。自費出版して売り歩いたという。そういう若者が描くファンタジーとはどういうものか、興味が湧いたからだ。
で、内容はやはり何かに似ていてスケールも小さいという印象(あくまで映画を観た限りでは)。これは仕方がないだろう。でも設定が面白かった。
兄弟同様に育った従兄弟は、兵役を嫌って村を出る。残された主人公は抵抗する人々(山にこもっているからゲリラ)を率いて、独裁を続ける王に立ち向かうのだ。王子が頑張るのではなく、持たざる農民の息子が頑張るという抵抗精神に好感が持てる。
ドラゴンとの友情もいい。96年に公開された「ドラゴンハート」を思い出したが、このドラゴンは女性なのがいい感じ。ゲリラの頭領はアフリカ系が演じていたが、原作ではどうなのだろうか。
監督:シュテフェン・ファンマイアー 2006年アメリカ映画 配給:フォックス
2007年01月24日
「みえない雲」原発の語り方
「考えさせる」「視野が広がる」
東京一館だけでひっそりと上映している映画。原発事故を背景にした10代のラブストーリーというところに惹かれて、観に行った。久々にドイツ語をたっぷり聴くことができたのも嬉しかった。
で、この映画は原発事故を背景にした珍しい青春映画・・・というより、ラブストーリーである。テストの最中に抜け出してキスをしている時に、原発事故が起きる(この設定はすごい!)。母子家庭のヒロインは家に戻り、弟と行動を共にしながら、出来たばかりの彼が来てくれるのを待つ。しかし、運命は残酷だった。
こういう設定でラブストーリーをつくるところがドイツらしい。そのドイツは先日、パイプラインをめぐるロシアとベラルーシのトラブルに巻き込まれ、石油の供給が数日間止まった。衝撃を受けたドイツでは今、脱原発政策が揺れている。
映画自体は個人の視点から、人生が破壊されていく様子を淡々と描いている。原発という大きな政治的社会的問題を、敢えて私的でミクロな物語に仕上げてある。被災者に向けられる冷たい目に、戦後日本で被爆者が味わってきた苦しみが重なる。
監督:グレゴール・シュニッツラー 2006年ドイツ映画 配給:シネカノン
東京一館だけでひっそりと上映している映画。原発事故を背景にした10代のラブストーリーというところに惹かれて、観に行った。久々にドイツ語をたっぷり聴くことができたのも嬉しかった。
で、この映画は原発事故を背景にした珍しい青春映画・・・というより、ラブストーリーである。テストの最中に抜け出してキスをしている時に、原発事故が起きる(この設定はすごい!)。母子家庭のヒロインは家に戻り、弟と行動を共にしながら、出来たばかりの彼が来てくれるのを待つ。しかし、運命は残酷だった。
こういう設定でラブストーリーをつくるところがドイツらしい。そのドイツは先日、パイプラインをめぐるロシアとベラルーシのトラブルに巻き込まれ、石油の供給が数日間止まった。衝撃を受けたドイツでは今、脱原発政策が揺れている。
映画自体は個人の視点から、人生が破壊されていく様子を淡々と描いている。原発という大きな政治的社会的問題を、敢えて私的でミクロな物語に仕上げてある。被災者に向けられる冷たい目に、戦後日本で被爆者が味わってきた苦しみが重なる。
監督:グレゴール・シュニッツラー 2006年ドイツ映画 配給:シネカノン
2007年01月13日
「鉄コン筋クリート」あんし〜ん!
「考えさせる」
松本大洋のマンガ「鉄コン筋クリート」は、1933年から34年にかけて描かれた。私は今回アニメを観て初めて内容を知ったのだが、こんなにタイムリーな物語だったとは。館内を埋め尽くした若者たちは、どういう感想を持っただろうか。
いつの時代の話なのかはわからない。娘は未来だというが(そのようにも見えるが)、明らかに昭和である。開発によって子どもをめぐる環境が変わる瞬間を背景にしている点からも、これは明白だ。
親がいない、従って子どもが当然受けるはずの保護からも愛情からも「安全と安心」からも放り出された少年、クロ。どこか心のネジがはずれたような、でも純粋な年下のシロを守ることで、クロは自分を支えている。
廃車の中で暮らし、周囲に牙を剥き、過酷な環境を暴力で跳ね返す。それがクロが身を守り、シロと生きていくために身につけた術なのである。
クロの住む宝町は、無国籍アジア的昭和の街だ。しかし、元警察官の人情ヤクザが仕切っていたこの宝町にも、時代の波が押し寄せる。ビジネス志向の新世代暴力団が進出、地上げによって古い街並は壊され、明るく近代的な子どもランドがオープンするのである。
クロに守られたシロの口癖は「あんし〜ん」。一番「安全・安心」から遠い存在である少年がこの言葉を口にするのは、皮肉という他はない。一方、セキュリティー・システムに守られた今の子どもたちは幸せなのだろうか。
日本に定住したアメリカ人の初監督作品であるところにも、時代が反映されていて興味深い。
監督:マイケル・アリアス 配給:アスミック・エース 2006年 日本映画
松本大洋のマンガ「鉄コン筋クリート」は、1933年から34年にかけて描かれた。私は今回アニメを観て初めて内容を知ったのだが、こんなにタイムリーな物語だったとは。館内を埋め尽くした若者たちは、どういう感想を持っただろうか。
いつの時代の話なのかはわからない。娘は未来だというが(そのようにも見えるが)、明らかに昭和である。開発によって子どもをめぐる環境が変わる瞬間を背景にしている点からも、これは明白だ。
親がいない、従って子どもが当然受けるはずの保護からも愛情からも「安全と安心」からも放り出された少年、クロ。どこか心のネジがはずれたような、でも純粋な年下のシロを守ることで、クロは自分を支えている。
廃車の中で暮らし、周囲に牙を剥き、過酷な環境を暴力で跳ね返す。それがクロが身を守り、シロと生きていくために身につけた術なのである。
クロの住む宝町は、無国籍アジア的昭和の街だ。しかし、元警察官の人情ヤクザが仕切っていたこの宝町にも、時代の波が押し寄せる。ビジネス志向の新世代暴力団が進出、地上げによって古い街並は壊され、明るく近代的な子どもランドがオープンするのである。
クロに守られたシロの口癖は「あんし〜ん」。一番「安全・安心」から遠い存在である少年がこの言葉を口にするのは、皮肉という他はない。一方、セキュリティー・システムに守られた今の子どもたちは幸せなのだろうか。
日本に定住したアメリカ人の初監督作品であるところにも、時代が反映されていて興味深い。
監督:マイケル・アリアス 配給:アスミック・エース 2006年 日本映画
「パプリカ」悪夢のような現実
私が今敏(こん・さとし)のファンになったのは、2003年製作の「東京ゴッドファーザーズ」を観てからである。成り行きでホームレスになった三人が、クリスマスの夜に赤ちゃんを拾い、親を捜しに行く物語だった。アカデミー賞長編アニメーション賞の候補作になった。
独特の、リアリズムあふれる作画。人物には体温が感じられ、街の描写も見事である。見慣れた新宿が新鮮に見えた。その今敏の新作が「パプリカ」。筒井康隆のSF小説が原作である。
サイコセラピーのために開発された最新治療機器、DCミニが盗まれる。この機器は頭部に装着すると、互いの夢が共有できるのである。しかし、悪用されれば人格が破壊され、精神のバランスが崩れてしまうのだ。そして恐れは現実となっていく。
夢の中に悪意を持った他者が侵入してくるという、まさに悪夢のような物語。しかし驚いたことに、観ていてあまり違和感を感じないのだ。それは私たちが今、悪夢のような現実を見ているからだろうか。
テンポのいい音楽に乗せて、眼前に繰り広げられる悪夢は絢爛豪華。現実が色褪せて見えるほどである。今、ネットではYouTubeが大人気。世界中が瞬時にして映像を共有できるようになった。フセイン大統領処刑の映像も、無造作に日常に入り込んでくる。夢の共有と相互侵入は現実のものとなりつつある。
監督:今敏 配給:ソニーピクチャーズ 2006年 日本映画
独特の、リアリズムあふれる作画。人物には体温が感じられ、街の描写も見事である。見慣れた新宿が新鮮に見えた。その今敏の新作が「パプリカ」。筒井康隆のSF小説が原作である。
サイコセラピーのために開発された最新治療機器、DCミニが盗まれる。この機器は頭部に装着すると、互いの夢が共有できるのである。しかし、悪用されれば人格が破壊され、精神のバランスが崩れてしまうのだ。そして恐れは現実となっていく。
夢の中に悪意を持った他者が侵入してくるという、まさに悪夢のような物語。しかし驚いたことに、観ていてあまり違和感を感じないのだ。それは私たちが今、悪夢のような現実を見ているからだろうか。
テンポのいい音楽に乗せて、眼前に繰り広げられる悪夢は絢爛豪華。現実が色褪せて見えるほどである。今、ネットではYouTubeが大人気。世界中が瞬時にして映像を共有できるようになった。フセイン大統領処刑の映像も、無造作に日常に入り込んでくる。夢の共有と相互侵入は現実のものとなりつつある。
監督:今敏 配給:ソニーピクチャーズ 2006年 日本映画

