2006年12月30日
「硫黄島からの手紙」虚しさと悲しさと
硫黄島は太平洋上にある小さな島だ。一昨年に小笠原に行った次女が帰ってきて、「一年に一度、硫黄島というところに行ける時にあたっていたらしいよ」と言っていた。小笠原は硫黄島に近いのだ。
私は「硫黄島は太平洋戦争の激戦地で、オリンピックの馬術競技で金メダルを取った人が戦死したのよ」と話した。
この秋から、硫黄島二部作が公開されている。硫黄島の戦いをアメリカ側から描いた「父親たちの星条旗」に続いて、いま日本側から描いた「硫黄島からの手紙」が公開中だ。
日本がつくったら、愛する者を守るために戦った感動の物語!「男たちの大和/YAMATO」のようになったであろう題材を、クリント・イーストウッド監督は淡々と描いている。
「おめでとうございます」という言葉と共に召集令状が届き、日の丸を掲げていない家に憲兵が来る。「日章旗を掲げていないのは非国民だ」という言葉を、ハリウッド映画で見るのは複雑な心境だ。
見捨てられた硫黄島の日本軍は弾も水も尽き、「靖国で会おう」「天皇陛下万歳」と叫びながら死んでいく。一体何のために? 誰のために?
彼らの死は報われず、大本営は本土決戦を叫び続けた。残ったのは破壊と癒えない悲しみだけだ。虫けらのように死ぬしかなかった彼らの無念は、今も硫黄島をさまよっているだろう。
クリント・イーストウッド監督 配給:ワーナーブラザース 2006年アメリカ映画
2006年12月14日
「王の男」韓国映画人の心意気
「歴史を知ればもっと面白い韓国映画」川西玲子
ランダムハウス講談社 1800円
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4270001542/sr=11-1/qid=1164977357/ref=sr_11_1/503-2848922-5861541
これはすごい映画だ。ふだん韓国映画を観ない人に、ぜひ観てもらいたい。韓国映画と言えば甘いラブストーリーだと思い込んでいる人に、韓国映画の違う顔をぜひ知ってもらいたいのだ。
ポスターが朝鮮王朝の美しい衣裳に彩られているので、華麗な王朝絵巻を期待して観に行くと落差に驚くことになる。「女より美しい男」イ・ジュンギを観に行った韓国映画ファンも、内容の激しさに驚いたかもしれない。
もちろん、朝鮮半島の大衆芸能をたっぷり堪能できる。独特の仮面、音楽、衣裳も魅力的である。しかし、下ネタ系の上品とは言えない庶民の笑いや、障害を持つ人の真似をする病身チムといった、問題をはらんだ表現を敢えて描くことによって、この映画は封建体制下の民衆の姿を浮かび上がらせた。
最下層の民でありながら、圧政を笑いのネタにして抵抗する芸人の心意気に、軍事体制下を生き抜いた韓国映画人の志が脈打っている。ラスト、過酷な運命にさらされながらなお、「今度生まれてきても芸人になりたい」と言い放つ主人公の言葉に、涙があふれた。
封建体制の遺物と闘う東アジアが、世界に放った快作である。日本人も中国人も、この映画を誇りに思っていい。
監督:イ・ジュンイク 2005年韓国映画 配給:角川ヘラルド=CJエンターテインメント
2006年12月06日
世界の現実を見よ! 「麦の穂をゆらす風」
打ちのめされた。文句なしの今年度ナンバー1! 万人必見である。テレビで流れていた「美しい国というキャッチフレーズは、この映画の前では色褪せる」という宣伝文句に偽りはない。最近何でも誉めているおすぎだが、この映画に関してはその通りである。
楽しい映画ではない。冒頭から凄惨な場面の連続で、初めは正直ちょっと辛かった。しかし、最後まで観て抱いた感想はとても言葉では言い表せない。これは今、私たちが眼前にしている現実なのである。この現実から目をそらすことは、人間として何か重要なものを放棄することになる。
1920年代、アイルランド独立運動に参加した兄弟の悲劇的な物語。ケン・ローチはこの物語の中に、世界が直面している問題の全てを描きだした。貧富の格差、植民地主義、テロ、現実の前で立ちすくむ理想。そして何よりも、「敵味方の論理」が生み出す悲劇の連鎖を。
ケン・ローチは、世界の現実にひるむことなく立ち向かう。今まで私は、どれだけ勇気を与えられてきたことか。スクリーンの向こうに、揺るぎない信念でメッセージを送り続けるケン・ローチの背中が見える。よし、私も頑張ろう。日本人よ、世界の現実を見よ。自分の不幸に負けるな。
今年度、カンヌ映画祭パルムドール(最高賞)受賞作品。監督:ケン・ローチ 2006年 アイルランド、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン合作 配給:シネカノン
楽しい映画ではない。冒頭から凄惨な場面の連続で、初めは正直ちょっと辛かった。しかし、最後まで観て抱いた感想はとても言葉では言い表せない。これは今、私たちが眼前にしている現実なのである。この現実から目をそらすことは、人間として何か重要なものを放棄することになる。
1920年代、アイルランド独立運動に参加した兄弟の悲劇的な物語。ケン・ローチはこの物語の中に、世界が直面している問題の全てを描きだした。貧富の格差、植民地主義、テロ、現実の前で立ちすくむ理想。そして何よりも、「敵味方の論理」が生み出す悲劇の連鎖を。
ケン・ローチは、世界の現実にひるむことなく立ち向かう。今まで私は、どれだけ勇気を与えられてきたことか。スクリーンの向こうに、揺るぎない信念でメッセージを送り続けるケン・ローチの背中が見える。よし、私も頑張ろう。日本人よ、世界の現実を見よ。自分の不幸に負けるな。
今年度、カンヌ映画祭パルムドール(最高賞)受賞作品。監督:ケン・ローチ 2006年 アイルランド、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン合作 配給:シネカノン
2006年12月01日
「明日へのチケット」多民族化するヨーロッパ
今日は月に一度の映画ファンサービスデー。できれば二本観たかったが、色々とやることがあって時間が足りず、仕方なく一本に絞った。
渋谷のシネ・アミューズのイーストとウェストで、「麦の穂を揺らす風」と「明日へのチケット」を上映している。どちらかを観ようと思って家を出た。で、用事を済ませてからシネ・アミューズに行くと、「麦の穂を揺らす風」はもう始まっていたので、「明日へのチケット」を観ることになった。
「麦の穂を揺らす風」はケン・ローチの作品。「明日へのチケット」はケン・ローチとアッパス・キアロスタミとエルマンノ・オルミの共同演出。どちらにもケン・ローチが関わっている。イギリスの、揺るぎなき社会派。私の大好きな監督だ。ちなみにシネ・アミューズはシネカノンの直営館だ。私はシネカノンと肌が合うらしく、よく観に行くのでポイントカードも持っている。
それで観た感想だが、大家三人の共同演出はやはりちょっと難しかったらしく、一つの映画として観ると不自然なのである。いっそオムニバスにした方が良かったと思う。ヨーロッパ横断鉄道の中で繰り広げられるドラマという発想は、とても良かったのだが。
でも今、イギリスとイランとイタリアの大監督がこういう映画を創ろうとした、その志が素晴らしい。大家になってなお、社会の現実と関わっていく姿勢がいい。ヨーロッパの現実がそれを求めているということもあるのだろうが・・・と、つい頭で観てしまったが、やはり私はケン・ローチ的部分に心を動かされた。
恐らく、サッカーのヨーロッパ選手権決勝を観に行くのであろう、スコットランドの若者三人組。そのうちの一人の乗車券が無くなり、彼らはアルバニア難民の少年を疑う。メディアを通じて見聞きしていた難民を目の前にして、彼らの心は揺れる。「この問題は、僕らスーパーの店員には手に負えない」。このセリフにあふれる若さに、館内には笑いが広がった。
ラストがとてもいいのである。大欧州の現実にうとかった若者たちが、横断鉄道の中で難民一家の悲しみと喜びに触れる。そして、誇り高きセルティック・サポーターの面目を発揮するのだ。それを美談ではなく、若者たちの素朴な情熱の発露として描いたところが実に気持ちがよくて爽やかだ。力強く、希望に満ちたメッセージである。
2005年:イギリス・イタリア合作 配給:シネカノン
渋谷のシネ・アミューズのイーストとウェストで、「麦の穂を揺らす風」と「明日へのチケット」を上映している。どちらかを観ようと思って家を出た。で、用事を済ませてからシネ・アミューズに行くと、「麦の穂を揺らす風」はもう始まっていたので、「明日へのチケット」を観ることになった。
「麦の穂を揺らす風」はケン・ローチの作品。「明日へのチケット」はケン・ローチとアッパス・キアロスタミとエルマンノ・オルミの共同演出。どちらにもケン・ローチが関わっている。イギリスの、揺るぎなき社会派。私の大好きな監督だ。ちなみにシネ・アミューズはシネカノンの直営館だ。私はシネカノンと肌が合うらしく、よく観に行くのでポイントカードも持っている。
それで観た感想だが、大家三人の共同演出はやはりちょっと難しかったらしく、一つの映画として観ると不自然なのである。いっそオムニバスにした方が良かったと思う。ヨーロッパ横断鉄道の中で繰り広げられるドラマという発想は、とても良かったのだが。
でも今、イギリスとイランとイタリアの大監督がこういう映画を創ろうとした、その志が素晴らしい。大家になってなお、社会の現実と関わっていく姿勢がいい。ヨーロッパの現実がそれを求めているということもあるのだろうが・・・と、つい頭で観てしまったが、やはり私はケン・ローチ的部分に心を動かされた。
恐らく、サッカーのヨーロッパ選手権決勝を観に行くのであろう、スコットランドの若者三人組。そのうちの一人の乗車券が無くなり、彼らはアルバニア難民の少年を疑う。メディアを通じて見聞きしていた難民を目の前にして、彼らの心は揺れる。「この問題は、僕らスーパーの店員には手に負えない」。このセリフにあふれる若さに、館内には笑いが広がった。
ラストがとてもいいのである。大欧州の現実にうとかった若者たちが、横断鉄道の中で難民一家の悲しみと喜びに触れる。そして、誇り高きセルティック・サポーターの面目を発揮するのだ。それを美談ではなく、若者たちの素朴な情熱の発露として描いたところが実に気持ちがよくて爽やかだ。力強く、希望に満ちたメッセージである。
2005年:イギリス・イタリア合作 配給:シネカノン

