2008年06月15日

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」石油と宗教保守 アメリカの原型

 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」。わかりにくい題名だが、今年のアカデミー賞で「ノーカントリー」と作品賞を競った映画である。考えなければ内容が想像できない題名で公開するのは、いい加減にしたらどうだろうか。

 映画自体は凄まじいというか、ずしんと来る内容である。アメリカでは「市民ケーン」に匹敵する傑作という評価を受けたが、まさに。「ブギーナイツ」や「マグノリア」の監督が製作したとは思えない。引き出しがたくさんあるのか、多重人格なのか。
 
 石油に取り憑かれ、立ちはだかる難問と戦いながら巨大な富を手に入れていく主人公は、次第に人格が歪んでいく。人間というより、怪物のような存在になっていくのだ。それが、今のアメリカそのものに見えるのである。対テロ戦争を支える二本柱、石油利権と宗教保守を対決させるとは、見事の一語である。
公式サイト
http://www.movies.co.jp/therewillbeblood/
gazou 2 ←これは宣伝です(笑)
韓国映画の見方が変わる、脱「韓流」本!
「歴史を知ればもっと面白い韓国映画」川西玲子
          ランダムハウス講談社 1800円
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4270001542/ref=pd_rvi_gw_1/503-2848922-5861541

 
posted by zeroko at 13:26| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月05日

「僕の彼女はサイボーグ」アジア的SF映画へのチャレンジ

 
 「猟奇的な彼女」「ラブストーリー」のカク・ジョエン監督が、日本の俳優を使って日本で撮った作品。ひとことで言うとSF映画である。アジア人はSF映画をつくれないというのが定説だが、それはハリウッド映画と比べるからだ。それに、そもそも科学自体が西洋近代そのものなのだから、比べることには無理がある。

 でも私は、アジアにはアジアのSFがあると思っている。この映画はラブストーリーを軸に、アジア的SF世界に挑んだ意欲作と言えるだろう。特に感銘を受けたのは、主人公ジローの子ども時代の描写。あれは昔の日本というより、汎アジア的故郷の風景ではないだろうか。

 中国にも韓国にもあった、そして今、失われつつある懐かしい風景だ。改めて、アジアの近代化が「喪失」の上に成り立っているということを痛感した。メロドラマの一方手前で留まっているところにも、好感が持てる。
posted by zeroko at 01:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月01日

「光州5.18」韓国映画の原点と魅力

 
 1980年に韓国で起きた光州事件。新軍部の台頭によって軍事政権の第二幕が始まる前に起きた、韓国現代史の悲劇だ。この光州事件が映画になった。「光州5.18」である。人気俳優を使った商業映画でありながら、光州の悲劇をリアルに描いている。
 
 この映画の中で一番衝撃的な場面は、市民たちが太極旗に向かって国家を歌っているときに、 戒厳軍が一斉射撃を始めるところだろう。 「韓国万歳! 光州万歳!」と叫んで市民が倒れる描写もある。 深夜の街を、「私たちを忘れないでください」と言って回るラストシーンも心に滲みた。

  戒厳軍も市民も愛国心を掲げているわけだが、軍隊の愛国心は「体制」を守るもので、 市民の愛国心は「国民社会」を守るものだ。 つまり、体制が社会を押しつぶしていくのである。

 あれから28年。韓国の民主化は一段落、大統領選挙の焦点は経済で、国のCEOを公言する大統領が誕生した。若者の非政治化も進み、80年代に民主化を担った学生運動は縮小し、時代に合わなくなっているという。韓国社会は次の段階に入った。

 しかし韓国にはまだ、こういうテーマに取り組む監督がいる。そしてそういう志を忘れない限り、韓国映画は魅力的であり続けるだろう。
posted by zeroko at 01:24| Comment(0) | TrackBack(1) | アジア映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月22日

「靖国 YASUKUNI」靖国のタブーはむしろ強まった?!

 
 靖国刀をつくり続ける90歳の刀匠へのインタビューを軸に、8月15日の靖国神社の様子を映し出す地味なドキュメンタリー。恐らく、ほとんどの日本人が知らない光景である。8月15日の靖国神社は異様な雰囲気だ。首相の靖国参拝に賛成にしろ反対にしろ、多くの人はわざわざ靖国神社には行かない。

 ここに映っている人たちは、ある意味で極端な人たちだ。台湾先住民の抗議を通訳して伝える日本人は、怒りのあまり汚い言葉を使うし、靖国参拝反対を叫ぶ日本の若者は、わざわざ参拝運動を進める集会に乱入して殴られる。彼らに「中国へ帰れ!」と叫び続ける日本人の姿も、また見苦しい。

 製作スタッフが本当に問いかけたかったのは、スクリーンに映っていない、大部分の日本人の意識ではないだろうか。それはかつて軍部に騙され、あるいは同調し、あるいは嫌々ながら侵略戦争を遂行した日本人に重なる層である。いつの時代も、この声なき多数派が国の進路を決めることになる。

 この映画は結局、上映できることになった。しかし、宣伝になったなどと考えるのは早計である。政治家が介入して上映自粛を招いたという事実は大きいし、靖国のタブーはさらに強まるだろう。今後これだけのトラブルを覚悟して、靖国問題に取り組む日本人がいるだろうか。
posted by zeroko at 17:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月24日

「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」特異な事件に刻まれた時代の刻印

 
 2月に開催された第58回ベルリン国際映画祭で、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」が二つの賞を取った。アジア映画の秀作を称えるNETPAC賞と、国際芸術映画評論連盟賞である。

 連合赤軍事件もあさま山荘事件も、記憶している世代はもう限られる。全共闘について若者に説明するのも難しい。だが私は、来週の授業でこの映画を紹介しながら、大学生を前に敢えてこの難題に挑むつもりだ。そういうことが私にできる限りは、やっていこうと思っている。
 
 この二つの事件は、一部の過激派学生が起こした特異な事件だ。全共闘についても、それに関わった世代から「流行に乗っただけ」という言葉をよく聞く。また多くの活動家が掌を返したように、就職して猛烈サラリーマンになっていったことも事実だ。ただのバカな騒乱だったという見方も多い。

 だが中学から高校時代にかけて、同じ時代の空気を吸った私の感想は違う。あれは、起こるべくして起きた事件だったのだ。一部の極端で思い詰めるタイプの若者達が引き起こしたものではあるが、そこには時代の刻印がある。彼らは何かを象徴していた。私もまた同時代を生きた人間として、それに関わったという感覚がある。

 連合赤軍事件を忘れることはできない。私は私の過去を曖昧にはできないし、日本社会もまた、過去を曖昧にはできないのである。立場の如何に関わらず、あの時代を生きた人間にも全く知らない世代にも、この映画を観てもらいたいと思う。現在は過去の続きだからである。「そんなの関係ねぇ」という言葉の先には荒廃しかない。それにしても、若松孝二という表現者が現役で幸いだった。
posted by zeroko at 19:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月19日

「エリサベス ゴールデンエイジ」ちょっと恐いが、出色の女性映画

 今年のアカデミー賞で、ケイト・ブランシェットは二部門にノミネートされた。助演女優賞と主演女優賞である。助演女優賞にノミネートされたのは、「アイム・ノット・ゼア」での演技。若き日のボブ・ディランを演じたのである。予告篇を見ただけだが、これはすごいと思った。

 そして、「エリサベス ゴールデンエイジ」で主演女優賞ノミネート。10年前、彼女の名声を一気に高めた映画の続編である。今見ると、10年前のケイト・ブランシェットはかわいい。あれから10年、今や演技派女優の名を欲しいままにしている。初めて観た時は「薄い顔だな」という印象だったが、それが役ごとに変わるのが見ものなのだ。

 「エリサベス ゴールデンエイジ」とは、熟女となったエリザベス一世のことかと思っていたが、そうではなくて、イングランドの黄金時代という意味らしい。しかし、私の誤解はある意味、はずれてはいなかった。この映画はまさに、若さを卒業した女性に見てもらいたい映画だからである。

 まだ弱小国だったイングランドを率いて、エリザベスはスペインの無敵艦隊を破る。ラスト、突き抜けた女王が見せる堂々たる自己肯定が素晴らしい。目を覆いたくなるような残虐な場面もあるが、これは出色の女性映画だ。監督がインド出身であるという点にも興味が尽きない。
posted by zeroko at 21:46| Comment(0) | TrackBack(2) | ヨーロッパ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月26日

アカデミー賞発表 おすすめ映画はこれ!

 昨年11月から続いていた脚本家組合のストで、開催が危ぶまれていたアカデミー賞の発表が行なわれた。脚本家たちが求めていたのは、ネット配信に際して脚本家に支払われる、報酬の引き揚げだ。

 今から20年前、ビデオが普及しはじめた時、その後の展開が予想できなかった脚本家たちは、ごく低額の報酬で合意してしまった。その二の舞にならないよう、今回は強硬に主張したのである。俳優組合も同調して、ストは長引いた。お陰でゴールデングローブ賞の授賞式は、発表だけの地味なものになった。

 しかし、ストが必ずしも悪いわけではない。日本の場合、スト自体が違法扱いで、もはや死語に近くなっている。そもそも団結自体が不可能だ。これでは泣き寝入りするしかない。日本の脚本家たちはこの状況を、どう考えているのだろうか。
 
 さてアカデミー賞だが、前評判の高かったコーエン兄弟の「ノーカントリー」が監督賞、作品賞など四冠を達成した。1991年、「バートン・フィンク」でカンヌ映画祭三冠達成以来、十七年。大家の仲間入りである。殺人者を演じたスペインの俳優、ハビエル・バルデムが助演男優賞を獲得した。とても面白そうな作品なのだが、暴力場面が恐くて正視できるかどうか。

 主演女優賞は「エディット・ピアフ 愛の讃歌」のマリオン・コティヤール。フランス人の受賞は、シモーヌ・シニョレに次いで二人目だ。主演男優賞は「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のダニエル・デイ=ルイス。ゴールドラッシュで財を成し、人間性を崩壊させていく男を演じている。それにしても、もっと気の利いた邦題にできないものか。

 助演女優賞は、イギリス出身のティルダ・スウィントン。ジョージ・クルーニーと共演した企業サスペンス「フィクサー」での熱演が認められた。「ナルニア国物語」では氷の魔女役だった。独特のクールな風貌で、不思議な魅力を放つ女優だ。この映画、楽しみ。

 個人的に注目していた外国語映画賞は、オーストリア映画「ヒットラーの偽札」に。第二次大戦下のドイツで、ユダヤ人の技術に目をつけたナチスが指示した、史上最大の紙幣贋造を映画化したもの。公開中。

 外国語映画賞ノミネート作品は他にも、イスラエル映画「ボーフォート レバノンからの撤退」(公開中)、アンジェイ・ワイダがソ連によるカチンの森虐殺事件を描いた「カチン」、我が浅野忠信主演の「モンゴル」(4月5日公開予定)、継父殺しで告訴されたチェンチェン人少年の裁判を描くロシア映画「12」など、興味深いラインナップだ。

 だが、「カチン」も「12」も公開未定なのが寂しい。なお受賞は逃したが、長編アニメーション賞にノミネートされていた、フランスの「ペルセポリス」が秀逸だ。ホメイニ革命を経験した少女が、ヨーロッパに渡って文化の壁にぶつかり、再びイランに戻ってアイデンティティを探し求める物語。こんな政治的なテーマをユニークアニメにしてしまうフランス人は、やはりすごい。
http://persepolis-movie.jp/
posted by zeroko at 11:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画をめぐる話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月07日

「ぜんぶ、フィデルのせい」公立学校が輝いて見えた

☆考えさせる 視野が広がる 楽しい 

 父親は弁護士、母親は「マリ・クレール」の記者。白人ばかりが通う、カトリックの名門小学校に通う9歳のアンナは、上品で何不自由のない生活を送っていた。だがある日、両親が共産主義者になったのである!

 生活は一変した。両親の希望で、宗教の授業には出ないことになる。メイドさんは政治的理由で、キューバ人からギリシア人、そしてベトナム人に代わる。その度に作ってくれる料理も、聞かせてくれるお話の内容も変わるのだ。両親は選挙の支援にチリに出かけ、家には髭を生やした男たちや、中絶の権利を求める女たちが出入りする。アンナは振り回されっぱなし。少女の目から見た、70年代のフランスである。

 「もう我慢できない!」。アンナは、不満を爆発させる。フランコ派の両親から逃げるようにフランスに来た、スペイン貴族の父親。女性解放を叫びながら、娘をお嬢さん学校に入れた母親。アンナの反撃は、両親の矛盾を鋭く突くのである。いつも仏頂面のアンナがかわいい。

 しかし怒りつつも、真摯に対応する大人たちの中で、アンナは色々考えはじめるのだ。そして、友人と取っ組み合いの喧嘩をしたことをきっかけに、公立学校への転校を決意する。様々な民族が集まる生徒の輪の中に、アンナが恐る恐る入っていくラスト。公立学校が輝いて見えた。
公式サイトはこちら
http://fidel.jp/
posted by zeroko at 23:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ヨーロッパ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月02日

「母べぇ」悔し涙が止まらない

☆考えさせる 視野が広がる 

 観ていて涙が出た。悲しくて涙が出たのではない。悔しくて涙が出たのである。無謀な侵略戦争のために、良心的な日本人は塗炭の苦しみを味わった。それなのに最近、記憶が風化してきたのをいいことに、「戦前の社会が真っ暗だったわけではない」と言っている人がいる。そういう人に観てもらいたい。

 今何が起きているか気づかなかった人、軍部やマスコミの宣伝に乗せられていた人にとっては、確かに「戦前の社会も真っ暗だったわけではない」のだろう。しかし、自由が圧殺されていることに気づいていた人、それに反対した人にとっては、真っ暗な社会だったのである。そして、初期の連戦連勝に浮かれていた人たちも、太平洋戦争の末期になると、重い沈黙に包まれた。
 
 この映画が描いているのは主に、日米開戦前の日中戦争下の日々である。日本人があまり知らない時期の話だ。中国との戦争に反対した父が逮捕されて、母は娘たちを守りながら懸命に生きていく。やがて父は獄中で死亡。一家を支えていた青年も出征、美しい叔母も広島で命を落とす。

 だがこの映画は悲惨ではない。ユーモアを交えて淡々と日常を追いながら、信念を貫く人間の美しさを讃えているからである。溺れかけた青年を助けるため、吉永小百合演じる母がワンピースのまま海に飛び込み、力強いクロールを見せた時には場内がどよめいた。昭和の母は強かった!

 坂東三津五郎、浅野忠信、壇れい、笑福亭鶴瓶、志田未来などの個性派を揃えたのが成功している。それだけに「母べぇ」という、若者や女性の関心を惹かないタイトルにしたのが残念だ。
posted by zeroko at 14:57| Comment(0) | TrackBack(1) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月23日

浅野忠信主演映画「モンゴル」、アカデミー外国語映画賞にノミネート

 浅野忠信主演映画「モンゴル」が、アカデミー外国語映画賞にノミネートされた。チンギスハーンの半生を描く物語。製作発表があった時から、大いに期待していた映画だ。

 日本有数の花美男、浅野忠信が主演しているということもあるが、もう一点。モンゴル、カザフスタン、ロシア、それにドイツの合作映画という点に、私は興味津々なのだ。そして今まで、日本での配給元も公開も決まっていないことに失望している。

 アカデミー外国語映画賞の候補になったのだから、間もなく公開が決まるだろう。しかし、アジア人がテーマの合作映画に対する映画界の無関心というか、そろばん勘定には失望させられる。宣伝次第ではいけそうな映画なのに。

 モンゴルと言えば、今や国技大相撲を支える存在だ。日本人は半数がモンゴロイドで、新生児の多くはお尻にモンゴル斑を持つ。まぁそういう事はどうでもいいだが、いずれにせよなじみの間柄である。それなのに視線が冷たい。角川春樹制作のとんちんかんな「蒼き狼」は、大々的に公開されたのに。
posted by zeroko at 21:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画をめぐる話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする